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東京高等裁判所 昭和37年(ネ)2772号 判決 1965年11月22日

控訴人 田中幸夫こと金仁玉 外四名

被控訴人 田中清堯

主文

本件控訴並に附帯控訴をいずれも却下する。

控訴並に附帯控訴費用は全部控訴人等の負担とする。

事実

控訴人等代理人は、本案前の申立として「原判決を取消す、本訴並びに反訴を東京地方裁判所に差戻す」との判決を求め、仮に右申立が理由のない場合は「原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、附帯控訴については異議があるがこの申立が認められないときは附帯控訴棄却の判決を求めると述べた。被控訴代理人は本件控訴はいずれも之を棄却する、但し、原判決添付目録記載の不動産の表示を本判決添付目録<省略>記載のとおり訂正する、との判決を求め、附帯控訴として原判決主文第一項を次のとおり変更する、控訴人(附帯被控訴人)金仁玉は被控訴人(附帯控訴人)に対し別紙目録記載第二の建物より退去し、同記載第三(一)及び(二)の建物を収去して同記載第一の宅地一六五坪六合を明渡し、かつ昭和三四年一一月一五日から昭和三八年一〇月一四日まで一箇月金一万円、同年同月一五日から右明渡に至るまで一箇月金一万六、五〇〇円の割合による金員を支払え、附帯控訴費用は附帯被控訴人の負担とするとの判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並に証拠の提出、援用及び認否はつぎの点を附加訂正するほか原判決事実摘示のとおりであるから茲にこれを引用する。

(控訴人の主張)

一、本案前の申立

(1)  本件控訴のうち東京地方裁判所昭和三六年(ワ)第八、六七九号損害賠償請求反訴事件については、原審は単に右反訴事件が本訴事件(東京地方裁判所昭和三五年(ワ)第六、八七二号家屋明渡等請求事件)に対し併合要件を具備しないものと認定して之を却下し、反訴本案については何等実体的審判をしなかつた。そこで右認定のとおり本件反訴が本案と何等の牽連関係がないとするならば原審は当然反訴を分離して審理すべきであつた。従つて本件反訴に対し控訴した趣旨は、前記のとおり反訴を却下した原判決は違法であるから之を取消し、更に反訴事件を本訴と分離し東京地方裁判所に差戻す、という訴訟判決を求めるものであつて反訴に対しての本案の裁判を求めるものではない。

なお控訴人は以上の見地から本件控訴状には二千二百三十五円の印紙を貼用しその外に反訴の部分については民事訴訟用印紙法第一〇条により金二十円を貼用したのみで反訴の訴額を基準とした印紙金六千六百円を貼用する必要はないと考えると附言した。

二、本案に対する主張並答弁

(一)  被控訴人主張の本件第二の建物は当初訴外柏熊恒の所有であつたが、同人は昭和三十四年十月二十日これを控訴人金仁玉に売渡し、同控訴人は同月三十日訴外金仁錫に譲渡したものである。そこで同訴外人は訴外柏熊から右建物の引渡を受け同年十一月二十日柏熊から中間省略登記により所有権移転登記を経由したものである。そして控訴人金は右金仁錫から右建物を賃借してその敷地たる被控訴人主張の本件第一の土地を占有しているものである。ところで訴外金仁錫は前記のとおり右建物と共にその敷地たる右土地を訴外柏熊から転借したものであるから控訴人金が本件土地を占有使用していることは適法である。

(二)  被控訴人が原審において主張してきた本件明渡を求める土地並に家屋の地番及び家屋番号の訂正については異議がない。

(三)  附帯控訴について

(1)  本件附帯控訴はその実質において控訴審における反訴と同視すべきであるから、附帯被控訴人は右附帯控訴には不同意である。

(2)  附帯控訴人主張のとおり本件第二の建物が増築されたことは認めるが、それは原審当時既に増築されてあつたものである。その余の事実は否認する。

(被控訴人の主張)

(一)  被控訴人が明渡を求めている原判決添付目録記載の土地と同地上にある建物につき地番従つて家屋番号に誤記があるのでその表示を次のとおり訂正する。

第一東京都品川区大井南浜川町一、八四八番地を同町一、八四七番地の二と、第二同町一、八四八番地を右同様同町一、八四七番地の二と、家屋番号同町一、八四八番を同町一、八四七番の二と第三(一)(二)の各家屋の所在地の地番を右同様同町一、八四七番地の二と夫々訂正する。

なお右第二の建物について仮処分命令に基づきなされた保存登記の表示(品川区大井南浜川町一八四八番地仮家屋番号同町一八四八番)は実体と符合しなかつたので昭和三十八年八月七日これを前記のとおり更正登記をなした。

(二)  附帯控訴の理由

附帯控訴人は附帯被控訴人に対し従来明渡を求めていた土地(原判決添付目録図面(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)、(ホ)、(イ)を以て囲む部分)の坪数を百坪と主張してきたが右目録記載第二の建物(登記簿上四七坪二合五勺)が何時の間にか増築され約六七坪三合二勺となり不法占拠している土地の範囲も百十五坪七勺と増大したので、右明渡を求める土地を本判決添付目録図面<省略>(公道との境界を示す標石(イ)点を起点とし、隣地の同所一、八四八番地の一との境界を示す標石(ロ)点とし(ロ)点よりコンクリートの塀に沿つて一五、八間のところを(ハ)点とし、更に(イ)点より他の隣地同所一八四六番地の一との境界を示す七、五間のところにある標石を(ホ)点とし、(ホ)点より立合川に沿つて九、七間延長したところを(ニ)点とし、右(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)、(ホ)、(イ)を以て囲まれた部分但し、右(イ)、(ロ)、(ホ)の各点は原判決添付図面と同一)のとおりと拡張をする。従つて賃料相当の損害金について附帯控訴をなした日の昭和三十八年十月十五日以降土地明渡ずみに至るまでは一箇月金一万千五百円(坪当り金百円)の割合によつて請求する。

(三)  控訴人等の主張事実は争う。

(証拠関係)<省略>

理由

当裁判所は本件控訴並に附帯控訴をいずれも不適法として却下すべきものとなすものであつてその理由は次のとおりである。

控訴人は昭和三十七年十一月二十日原審東京地方裁判所において本訴につき敗訴、反訴につき却下の判決を言渡されたるを以て同年十一月二十七日当裁判所に控訴状を提出したがこれには本訴の分として二千二百三十五円、反訴の分として二十円の印紙を貼用したのみで反訴の訴額を基準とした印紙額金六千六百円に対する不足分六千五百八十円を貼用しなかつたので当裁判所裁判長は昭和四十年十一月五日附を以て控訴人等代理人に対し右不足分の印紙の追貼を命じたが同人はこれが命令に従わなかつたことは本件記録によつて明白である。

控訴人の主張によれば本件控訴の不服の限度は本訴についてはともかく、反訴については原審認定のとおり併合要件を具備しない場合本訴と分離して審判すべきことについて訴訟判決を求めるためであり、実体的本案の裁判を求めるものではないから、反訴の訴訟物の価額を基準とした印紙額を貼用する必要はないと謂うにある。

併しながら現行民事訴訟法上所謂控訴不可分の原則により控訴に因り第一審判決の目的たりし訴訟物全部が控訴審に移審するものと謂うべきであるところ、第一審は反訴につきこれを分離せず(分離して審理をなし得るか否かについては議論の岐れるところであるが)一個の終局判決を以て却下する旨言渡をなした以上本件控訴により当然本訴並に反訴ともに控訴審における訴訟の目的となるもので控訴人の不服の理由ないしは限度にかかわるものではない。従つて本件控訴状に貼用すべき印紙は第一審判決中控訴の効力の及ぶ本訴並に反訴の訴訟物全部を基準としてその額を定むべきである。蓋し、控訴人主張の如き不服の理由とするところは控訴状の必要的記載事項ではなく、また後にその理由を変更し得るのであるから控訴提起に際し右不服の理由を基準として貼用印紙額を定めることは不可能でもあるからである。

以上のとおりであるから本件控訴は不適法にしてその欠缺が補正し得ない場合であるから民事訴訟法第三八三条に則り之を却下すべく、また被控訴人が昭和三十八年十月十四日になした本件附帯控訴は控訴期間経過後であることは明らかであり、主たる控訴が前叙のとおり却下せられた以上右附帯控訴を維持し得ないことは同法第三七三条の規定に照し明らかであるから同様之を却下すべく、訴訟費用中控訴に要したる費用は同法第八九条、第九三条及び第九五条により控訴人等の負担とし、附帯控訴に要した費用は同法第九〇条及び第九五条により控訴人等の負担とすべきものとし主文のとおり判決する。

(裁判官 平賀健太 加藤隆司 安国種彦)

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